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社長コラム

【第8話】地酒と専門店:リスク負う覚悟持ち

5月下旬に、ある酒を発売した。発売に至る過程で「地酒」とそれを取り扱う「専門店」について考えさせられた。これについて取り上げたい。     そのお酒は偶然の産物だった。米を40%まで磨いた純米大吟醸だが、発酵力が弱く甘口に仕上がった。狙いとする酒質と違ったが、透明感のある甘さと酸味が調和した「意外にいい酒」と感じていた。   この酒の価値を見出したのは、その頃に弊社を訪ねた地酒専門店のKさんだった。この酒を「いける」と直感したKさんは、瞬時にその酒の売り出し方、ラベルのイメージ、顧客層、容量まで提案してくれた。実際、酒の展示会でも好評で多くのご注文をいただくことができた。 しかし、いよいよ出荷という時、再度利き酒した私はがくぜんとした。展示会に出品した頃の味の伸びやかさと力強さが失われていた。原因は明らかだった。火入れをしたことで酒質が変化したのだ。酒を瓶に詰めて瓶ごと加熱し、その後急激に冷やすという加熱方法をとったにも関わらず、微妙な変化は避けられなかった。早速サンプルをKさんに送って意見を聞いた。「プロでなければ分からない差」との答えだった。Kさんの読み通り、発売後もお客様に好評をいただいているし、売れ行きも上々だ。しかし、当初の素晴らしさを知る私としては後悔が残った。   甘口の酒には多くの旨味成分が残存しているため味が変わりやすい。火入れはその変化を止める手段だ。品質の安定を考えれば火入れが正解だ。一方で、酒は生ものであり、嗜好(しこう)品でもある。絶えず変化する味わいの旬を見極め、十人十色のお客様の嗜好とマッチングさせるのが「地酒専門店」の役割であるならば、火入れでなく、「生のまま」商品を提供すべきだった。プロしか扱えない商品として舌の肥えた顧客をも魅了したことだろう。   食品製造業としては均一性や再現性、安全性は重要なものだ。しかし、それだけでは感動を与える商品は生み出せない。旬の味を見極める確かな味覚と、それを伝える情熱、そして何よりもお客様の感動のために少しのリスクを負う覚悟をもった「専門店」の期待に応えられる商品を出していきたいと感じた。地酒として生きる道もそこから開けるのだと思う。

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